「そんな御託を並べてないで、本題の、はらたくセンスを磨くのに役立つお店をそろそろ教えなさいよ」とのツッコミ承知でもう少し概論を。

人に人格や人相があるように、レストランにも店格や店相らしきものがあります。その店格や店相って何から来るのでしょうか。

レストランの構成要素には、立地、店構え、内装、料理、サービス、客層、口コミ、価格などがあります。ただ、これらは比較的頑張ったり、お金を掛けたりすれば何とか手にすることができるものです。

僕が思うに、店格や店相に最も影響力を与えるのは「客筋」です。「ん?客層と何が違うの?」という質問が浮かんだ方、鋭い。センスあります。

 

客層というのは、デモグラフィックなものなので、いわゆる属性的なことなので顔が見えません。

港区在住、40代半ば、金融関係にお勤め、家族構成はヨガインストラクターの配偶者と慶應幼稚舎に通う長男、週末は伊勢丹新宿店でお買い物、車はアウディQ5、、、みたいなものです。
なので、客層が「良い」とか「悪い」といった表現はあまり正確にその店格や店相を表すのに充分ではありません。

一方、客筋は、割と個人の顔が明確で、彼らのバックストーリーの豊かさや、目利きの信憑性の高さから店のセンスがビシャッと確定するようなものを言います。

 

例えば「こないだ行った飯倉のイタリアンで奥の席でユーミンがバジリコスパゲティをオーダーしていた」とか、「京都の祇園町にある一元お断りのカウンター割烹で中村勘三郎がグジの塩焼きを食べていた」なんてのは、最強クラスの客筋を想像させます。
こういった客筋は、似た客筋を呼び込み、ますます店格や店相を強固なものにしていくからです。もしあなたが幹事を承った食事会でこんなシチュエーションに出くわしでもしたら、あなたの幹事株は爆上がり間違いなしです。読者の皆さんより一回りほど上のボク世代なら、客筋選手権が開催された場合、必ず上位に来そうな顔ぶれは「ユーミン、伊丹十三、浅利慶太、坂本龍一、小澤征爾、高倉健、吉永小百合、中村勘三郎(敬称略)」あたりでしょうか。

何がという明確なポイントはないのですが、このヒトがそう言うなら、このヒトがオススメしてくれるなら、「なんだか間違いなさそうな気がする…」な方々です。皆さんの周りにもいらっしゃると思います。

ひとつ気をつけるべきは、ここで、無理にそのヒトの要素を分解して、断片的に真似してみても、最終完成系では何故かほど遠い仕上がりになってしまうということです。これがセンスです。丸ごと人生です。

その人が歩んできた一歩一歩、選んできた1つ1つ、付き合ってきた一人一人…の結果的な総体しか我々は見ること感じることができないので、難しいところです。

 

(文責:田中)