ビジネスではいろいろな食事のシーンが存在します。
以前もお話した通り、あるシチュエーションにはナイスチョイスだったお店も、別のシチュエーションではイマイチだったなんてことはよくあるわけです。
「オススメある?」と聞かれた相手のことは知っていても、そのお連れ様までは存じ上げていない場合とか、ちょっとオススメが球切れな場合とか、そんなときに目をつぶってても間違いないお店がリストにあるとグンと心の余裕が出ますね。

そんなとき私は「大将自身のお店のみならず、お弟子さんのお店も素晴らしい」かどうかをひとつの判断材料にしています。

飲食店というものはカウンター10席だけなら バッチリなクオリティで提供できても、席数が100席になったら 思い通りのクオリティを出すのは至難の業になります。同時に、1店舗ではいつも安心なサービスを提供できていたのに、2店舗以降を展開した途端「アレ?こんなサービスだったっけ?」ということもままあります。
「大将のお店が飛び抜けて凄い店」では、スタイルとしてちょっとお弟子さんをピリつかせながらマネジメントする方もいらっしゃるし、そんなお店も賑わっていたりします。

で、これは好みの問題で、良し悪しの問題ではないのであしからずなのですが、そのピリつきがお客様にまで伝播してしまうようなお店はちょっと私は他人にオススメしづらい。美味しんぼでも何度もそんなシーンがあるんですけどね。お客様の前でご機嫌ナナメだったり、客席に聞こえるボリュームでお弟子さんを叱責しているシェフを見ると、お客様のことを思ってやっているようで、その実「結局シェフのワタシが悪く思われるんだから、ちゃんとやってよね」とアピールしている・・・ように見える。

厳しいことを伝えないといけないときは それは会社でも、チームでも、お店でも、あるのは当たり前。そこに顧客がいますから。
そんなときこそ、笑いやユーモアを忘れず、目の前にお金を払って、一生に一回かもしれない食事の場にそのお店を選んでくださったお客様がいることも含めてバランスのある空気を作ってくれるお店のことを私はこよなく愛してしまいます。トコトン目や気を配ってくれて、トコトン想像力をフル回転させてくれるお店。すごい料理を作る創造力とは異なり、お客様ひとりひとりのシーンを思い浮かべる想像力の方を気にします。

だから、例え一見さんであろうと肩身の狭い思いをさせず ナイスな時間に仕立て上げてくださるから安心してオススメできる。東京でいえば、高太郎酒井商会創和堂爛缶まさし…。例えば 匠進吾すし匠齋藤すし匠まさ匠達広鮓村瀬すし良月…のようなお店です。
これらのお店の源流は中村悌二さん、中澤圭二さんという二人の巨人。顧客としては勿論、同業界人としてもこよなく尊敬、敬愛、めぐりめぐってジェラシーすら覚える「お弟子さんづくりの達人」です。


20代の頃のボクに教えてあげたいこと。
心地の良い体験をしたらそのお店の出自を探る。

 

(文責:田中)